完ぺき主義にはご用心
掲載日:2022年02月14日
投稿者:緒方 慶三郎
当院では2017年より、依存症の当事者を対象とした集団認知行動療法プログラムの「Kitasato Izon / Shiheki Prevention Program; KIPP」を実施しています。KIPPの特徴としては○○依存限定のグループではなく、薬物、アルコール、そしてギャンブルといった様々な依存の当事者に広く参加していただき、プログラムを実施しているところです。
依存といえば、だらしない人、あるいはいい加減な人、というイメージがありますが、むしろ治療者の実感としては、まじめで、完ぺき主義な人たちという実感があります。ただし、完ぺき主義といっても様々な要素があります。特にこのコラムで強調したいのは、例えば少しでもミスがあれば完全に失敗したことと同じというように考えてしまう、「失敗を過度に恐れる心理」についてです。先行研究では、この「失敗を過度に恐れる心理」の高さと、抑うつ傾向との高さに関係があることが報告されています。
さて、依存の治療や回復の歩みの中で、まったく1回もスリップ(再飲酒・再使用・再ギャンブル)を起こさないようにすることは可能でしょうか?そもそも「止めたくてもやめられない」という項目が診断基準にありますので、一時的には意志の力で止められていたとしても、症状のひとつとしてスリップしてしまうことはある意味で当たり前のことです。しかし不思議なことに、依存は「止めて当たり前」と考えられやすいのです。
KIPPをはじめとした集団認知行動療法では、「スリップがないクリーンな期間」を伸ばすことが重要ではありますが、むしろそれ以上に「ご自身の失敗を認め、それを正直に打ち明ける行動」を取れるようにすることを目的としています。もしかしたらこのコラムを見ているあなたが何かの依存を抱えていて、「もう2度とやらない」というお考えをお持ちかもしれません。もちろん、そのお考え自体を捨てる必要はありませんが、「失敗してもいいんだ」「失敗から学ぶことも必要だ」という風にも考えを広げるためのお手伝いができればと思います。
※本コラムでの「依存」とは、薬物依存症やアルコール依存症などの物質依存症や、ギャンブル障害などの特定の行動へののめり込み(嗜癖)について差します。