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こころとからだに良い食べ方 ~五感刺激のハーモニー~

掲載日:2025年07月01日
投稿者:神奈川県立精神医療センター

神奈川県立精神医療センター 栄養管理科 馬場 真佐美

依存物質や依存対象へのとらわれから、食べ物に関心がなくなったり、お腹を満たせばいいといった食べ方になる方を、時折、お見受けします。その結果、単調な食生活になると身体に必要な栄養素が偏ったり、不足しがちになることが心配です。加えて、依存症の方は、体重が多くても少なくても、低栄養状態にある方が多いように感じます。(食生活の改善はこちら)☚

食べることの目的は栄養補給だけでなく、美味しく食べることにもあります。食べ物には、季節ごとの旬や、味や風味があります。料理には、和食、洋食、中華など文化的な要素も含まれ、味付け方、盛り付け、器など異なる雰囲気を楽しむことができます。

さて、悲しいときや、気持ちに余裕がないときには、味を感じない、何を食べたか覚えていないといったことがあるのではないでしょうか。一方、おふくろの味という言葉があるように幼い頃に食べた料理や思い出の料理を食べると心がホッとしたりすることもあるのではないでしょうか。

食べ物を食べたときの感覚情報が脳に送られるだけが美味しさや味に結びついているわけではないようです。食べ物によって思い出や場面を想起したり、情動に結びつくことは、私たちは、経験上、知っていると思います。「美味しさ」の深み、複雑さをを感じるところです。

美味しさを味わうための食べ方として五感刺激と食事の関連を考えてみましょう。

    図1 美味しさを味わうための五感刺激

私たち人間には視覚・嗅覚・触覚・味覚・聴覚という感覚機能があります。
この感覚機能の総称を五感と言います。

しなしなになったポテトチップスを思い浮かべてみましょう。はたして美味しいと感じるでしょうか。ポテトチップスは、サクッとした歯ざわり、程よい塩味、好みのスパイスの香り、油の風味、少しきつね色になっている色など、人それぞれに美味しいと感じるための条件やこだわりがあると思います。美味しさを感じる脳の仕組みは、味覚や嗅覚、口腔体性感覚などの複数の感覚が重なりあって生じることが分かってきているそうです。

表1に美味しさを感じるための五感刺激となる食品の例を示しました。

感覚刺激という視点から五感刺激となる食品や料理の例をご紹介します。

表1 五感刺激となる食品の例

  五感                例
視覚情報 食材の色、料理の彩り、盛り付け方などの食事の見た目

テーブル、食器の色、ランチョンマットなどの環境

(赤) えび、肉、トマト、人参、いちご 紅ショウガ、梅干し

(黄) 卵、とうもろこし、黄パプリカ、カレー

(緑) キャベツ、ピーマン、ブロッコリー、小松菜、ほうれん草

味覚情報 (酸味) 酢、レモン、(塩味):醤油、塩、味噌、(甘味):砂糖、みりん

(苦味) ピーマン、ゴーヤ、ふきのとう、山菜、お茶、コーヒー

(うまみ) かつおだし、昆布だし、コンソメ、鶏ガラ、脂肪味

触覚情報 食べ物の固さ、柔らかさ、温度

カリカリ、パリパリ、しっとり、ねばねば、冷たい、温かい

(パン、フライ、パイ、おせんべい、クッキー、納豆、とろろ、アイスクリーム

お味噌汁、煮込み料理など)

聴覚情報 おせんべいやたくあんなどの咀嚼音

トントンと包丁で切る音、ジュ~っと肉を焼く音

パチパチと揚げ物をする調理音や食器を準備する音

気分が落ち着く音楽

嗅覚情報 ごはんの炊き上がりや煮物などの調理中にただよう香り

食品からの特徴のある香り

(柑橘類) ゆず、レモン、かぼす

(香味野菜)みょうが、しょうが、ネギ、せり、三つ葉、セロリ、バジル、クレソン

(スパイス)カレー粉、こしょう、さんしょう、シナモン、唐辛子

(料理)香ばしい風味、ごま油、オリーブオイルなどの脂肪の香り

しょうゆや味噌などの調味料、燻製、だしなどの調理中の香り

 

焼き肉は、肉を焼く音、煙の香りなど調理中の感覚刺激と、にんにくなど香味野菜の風味、たれの味やレモンやゆずなどの酸味による味の変化を楽しむことができます。

カレーライスは、ルーの色と白いご飯、福神漬けの色彩のコントラストの視覚情報、ルーのとろみの舌ざわり、スパイシーなカレー粉の香りの嗅覚刺激、それらを統合してカレーライス全体を味わうことができます。美味しさの背後には、複数の五感刺激が関与していることが分かります。

また、過去に食べたことのある料理は、記憶として情報伝達の神経回路が作られ、美味しさを感じるスピードが早くなるそうです。五感刺激のハーモニー、感情、記憶などの組み合わせを意識すると食べることのご自身オリジナルの楽しみが増えるかもしれません。積極的に幅広く、多種多様な食品、料理を食べることは自然と栄養素の充足にも近づきます。

美味しく食べることはこころとからだの両方に良い食べ方なのです。

神奈川県立精神医療センター

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