依存症コラム 依存症について知ろう「回復の広場」

アルコール

アルコールと不眠①

掲載日:2022年12月22日
投稿者:朝倉 崇文

寝酒が多い日本

皆さんは寝酒にどのようなイメージをお持ちでしょうか?人によっては、「睡眠薬を飲むくらいであれば寝酒を・・・」と考える方もいるでしょうし、健康意識の高い人であれば「寝酒は避けるべき」と聞いたことのある人もいるでしょう。寝酒と人類の付き合いは長く、古代エジプトでも寝酒の記載はありますし、英語圏の国では寒い日に眠りやすくする帽子に例えて、寝酒をナイトキャップと呼び、寝酒にあったカクテルも一般的です。

さて、太古の昔から見られた寝酒ですが、現代では世界でも群を抜いて寝酒が多い国が日本なのです。世界 10 カ国 (日本、ドイツ、オーストラリア、中国、ベルギー、ポルトガル、スペイン、ブラジル、南アフリカ、スロバキア)35,327 名を対象にした研究では、「睡眠のために飲酒する者」の10か国平均は19.4%で、日本は30.3%のダントツ一位でした。その一方で、「カフェインを控える」、「医師を受診」、「睡眠薬を使用」という「寝酒」以外の方法を取っている人の割合は、対象となった国の中で、日本は何れも最下位でした。

 

飲酒が睡眠にもたらす効果と問題

眠りに入る前に、ある程度の量のアルコールが体内に入ると、脳神経の興奮は抑えられるため、寝付くまでの時間は短くなります。ですので、たしかに、寝酒は寝つきを良くするのですが、睡眠の質は下げます。寝酒で眠った場合、睡眠の途中で、アルコールは代謝され体から抜けていきます。アルコールで無理やり興奮を抑えた脳神経は、アルコールが体内から減ると興奮してしまうので、早い時間に目が覚めてしまいます。また、アルコールには、尿を出しやすくする作用があるので、睡眠中に尿意が生じ、目が覚めやすくなります。これらの問題は、寝酒を続けることでどんどん悪化します。また、アルコールは筋肉を緩める作用がありますが、これが喉の筋肉を緩め、喉にある空気の通り道を狭くするため、いびきや睡眠時無呼吸といった睡眠の質を下げる状態を作ってしまいます。さらには、飲酒は、夜間に足が勝手に動いてしまう病気であるレストレスレッグ症候群の原因になり、これにより睡眠が細切れになることも知られています。そして、残念なことに、最初にお知らせした寝酒による「寝付きやすさ」は、3日間連続で弱くなってしまうのです。つまり、寝酒は、一時的には寝つきを良くしますが、続けていると、睡眠の質を悪くしていく上に、最終的には寝つきやすさも失くしてしまうのです。

睡眠に悪いはずの寝酒を、人は続けてしまうのでしょうか?これには、寝酒を続けていた人が、お酒をやめたときに起きる反跳性不眠という症状が影響しています。飲酒を続けていると、脳神経がアルコールに慣れていき、興奮を抑えにくくなる、すなわちアルコールで酔いにくい体になっていきます。これをアルコールに対する耐性獲得と呼びます。酔いにくいということは、眠くなりにくいことでもあるので、飲酒量をどんどん増やさないと眠れなくなります。この段階では、お酒を飲まないでいると、脳神経は興奮するようになります。ですので、お酒を飲む前よりも脳神経の興奮がおさまりにくくなるため、お酒なしにはリラックスしにくくなり、眠れなくなります。つまりは、睡眠を「よりよくするため」ではなく、「急な睡眠の悪化」に対し、その場しのぎの飲酒が繰り返されてしまうというのが実情です。

また、依存症レベルの大酒家の方には、この悪循環の中で、アルコール離脱症状(俗にいう禁断症状)が生じやすく、断酒直後から寝付けなくなったり、悪夢に苦しめられたり、ときには発汗、動悸、頻脈、頭痛、苛つきなどで、ひどい不眠に陥ることがあります。これを経験すると、「酒を止めると眠れなくなる」という恐怖心が生まれ、このせいで断酒が遠のいてしまうケースも少なくありません。

 

不眠とアルコール依存症

「人が抱える困難や苦痛を緩和するために物質の使用を繰り返すと、その物質使用に依存していく」ことが依存症の原因の一つされており、このメカニズムを「自己治療仮説」と呼びます。不安や不眠をもたらす脳神経の興奮を抑えるためにアルコール乱用をすることは、自己治療仮説に基けばアルコール依存になりそうですね。実際に、不安に伴う睡眠障害がある人は、ない人に比べて、アルコール依存などのアルコール関連問題を生じるリスクが2.32倍高まるという調査結果もありますし、体内リズムを維持しにくい遺伝子変化がアルコール依存に関連しているという報告もあります。

アルコール依存症を持つ人にとって、非常に問題となるのは、お酒をやめた直後だけではなく、断酒後数ヶ月に渡って不眠が続くことが、幾つかの研究が示していますし、不眠が続く人ほど、一度お酒をやめても再開するリスクが高いことも知られています。特に、もともと不眠症があった人の方が、飲酒を続けているうちに不眠が生じた人よりも、お酒をやめ続けにくいことも報告されています。

 

うつ病・躁うつ病とアルコール

アルコール依存症と診断される人が同時に診断されやすい病気としては、うつ病と躁うつ病があります。アルコール誘発性うつもありますが、うつ病や躁うつ病になった後に、飲酒の問題が起きる方の方が多いとの報告があります。特にうつ状態や躁状態のときには不眠になることが多く、不眠をマシにしたいという想いから酒が増えてしまうことが多いのです。また、うつ状態のときの飲酒は、自殺につながるため、気をつける必要があります。

朝倉 崇文 氏

北里大学病院

北里大学病院 医師

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